当院では2018年4月から乳癌患者さんに対する今後の遺伝医療の適応を考慮し、内分泌・乳腺外科内に遺伝専門外来を開設しました。
当科では以前より認定遺伝カウンセラーによる外来でのサポートを導入してきましたが、現在は専門外来にて医師と認定遺伝カウンセラーによる対応を行っています。
有名な米国女優の方が遺伝性乳癌卵巣癌症候群(以下HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome)であることを公表し、予防的乳房切除を行ったことが話題となってから本邦でも遺伝性乳癌に対する関心が高まってきました。HBOCの人では生まれながらに乳癌や卵巣癌、さらに前立腺癌、膵癌などの特定の癌になりやすい体質を持っているということが明らかになっています。HBOCの最も高頻度な原因はBRCAという遺伝子に変化が起きていること(遺伝子変異と言います)によります。BRCA遺伝子は誰しも持っているがん抑制遺伝子ですが、この遺伝子に変化が起こっていると本来の機能が低下し、癌になりやすい体質になり、一生のうち乳癌に罹患する確率は40~70%と高くなります。一般の日本人女性が11から12人に1人(約8%)乳癌になる現状と比較すると、BRCA遺伝子変異がある方は通常の検診ではなく専門医による検査を定期的に受けることが必要です。
BRCA遺伝子変異は親から子へ50%の確率で伝わります。男女は関係ありません。家族や血縁者で乳癌や卵巣癌などの方が複数名いらっしゃるという方はぜひ遺伝専門外来を受診してHBOCについて知っていただき、必要であればBRCA遺伝子の検査についてご検討いただくことをおすすめします。
このBRCA遺伝子変異があるかどうか調べる検査はご自身が乳癌や卵巣癌になりやすい体質をお持ちか、つまりHBOCであるかがわかる検査になります。同時に検査の結果が陽性であれば、ご家系内にBRCA遺伝子変異が受け継がれている可能性を証明したことになります。
身近な方が乳癌になったという話を聞くと、自分も乳癌になるのではないかとご心配になられる方も多いと思います。現在、日本人2人に1人ががんになると言われています。また乳癌の罹患も年々増加しており、今では日本人女性の11から12人に1人が乳癌と診断されるようになり、乳癌は決して珍しい病気ではなくなりました。ご家族でどなたか1人乳癌の方がいても、すぐに遺伝性乳癌を心配する必要はありません。しかし複数乳癌の方がいる、その方が若くして乳癌になった、他にも卵巣癌、前立腺癌、膵癌の方が血縁者にいるという方はHBOCの可能性がありますので、ぜひ遺伝外来の受診をおすすめします。一緒に今後の検査の方針をご相談させていただき、ご家族のお話をより詳細にうかがう遺伝カウンセリングについてお話させていただきます。
乳癌の術式には大きく2つに分かれます。乳房部分切除(部分的に乳房を切除し、一部乳房が温存されます)と乳房切除(乳房を全摘します)です。乳房切除を行う方には乳房再建を行うことができ、美容的な観点から無理な部分切除より乳房切除と再建をご希望される方が増えてきました。BRCA検査の結果、乳癌になりやすい体質をお持ちだとわかった方は、乳房部分切除できれいなかたちの乳房を作っても残った乳房にまた乳癌ができる可能性が高くなるため、どちらかというと乳房切除をおすすめすることになります。ただ、これは小さい乳癌で見つかった場合に部分切除をしてはいけないということではありません。ご本人にとってどの術式がいいのかご一緒にじっくりと考えていきます。またご家族の病歴からHBOCの可能性がある方はBRCA検査の結果で術式の選択が変わってくる可能性があり、手術の前に検査を受けるか考えることができますので、ご家族の病歴を医療スタッフにしっかりと伝えるということはとても大切なことになります。
下記に該当する患者さんはHBOCを診断するためのBRCA1,2遺伝子検査を保険診療にて受けることができます。
【保険適用となる方】
以下のいずれかにあてはまる方
上記に該当しなくても、下記のいずれかに当てはまる方
日本HBOCコンソーシアム(現在はJOHBOC:日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構)のホームページにわかりやすく解説されています。ご興味のある方は下のリンクまでどうぞ。